最高裁判所が SAS Institute v. Iancu判決から1か月余りが経過した。同判決において裁判所は「特許庁が当事者間再審査を開始する場合、申立人が異議を申し立てた全ての請求項の特許性を判断しなければならない」と判示した。 以前報告した通り、PTABは「SAS判決がAIA審判手続に与える影響に関するガイダンス」を発表し、直ちにSAS判決の解釈に基づく対応を開始した。これには、部分的に審理開始された手続に対し、異議申立対象の全クレーム及び全異議申立理由を含めるよう「審理開始決定を補充する命令」を発出することも含まれる。 本稿執筆時点で、筆者はこの種の命令を300件以上確認している(最終発行は5月24日)。現時点では、審理範囲を変更する命令の大半がPTABにより発行済みと見込まれる。
新規審理開始決定については、先月分により統計的に有意なデータセットが得られた。当該期間の審理開始率63%[1]は、2018会計年度の審理開始率62%を示す最新のPTAB統計と整合している。決定内容自体については、PTABはSAS判決以前の決定と同程度の詳細度で決定を下す傾向を継続している。 これらの決定には、審理対象の特定の非特許性理由に関して、申立人が「合理的な可能性を立証するのに十分な証拠を提示していない」との議論が頻繁に含まれている[2]。ただし、特許権者が予備回答において申立人の主張の一部または従属請求項に対応しなかった場合、少なくとも1件においてPTABは争点分析を超える追加的な指針の提供を控えている[3]。
その他の興味深い動向や事象も生じている。例えば、Cisco Systems, Inc. 他対 Oyster Optics, LLC 事件において、特許権者であるオイスター・オプティクス社は、PTAB(特許審判部)の当初の部分的審理開始決定及びその後の審理範囲変更命令に対し、手続上の異議を申し立てている。[4]オイスター・オプティクスによれば、本手続は却下されるべきである。その理由は、(1) PTABが自らの審理開始決定を修正した行為は、「申立人が勝訴の合理的な可能性を立証できなかった異議申立対象クレームを含む、全ての異議申立対象クレームを扱う手続の運営方法を、法令で義務付けられた規則制定手続きを経ずに不適切に解決しようとする試みである」こと、 また(2)「審理開始決定の法定期間が経過した後は、審理開始決定が違法であった場合、審理開始審議会がこれを修正する権限を有しない」ためである。PTABがこれらの手続上の主張にどう対応するかは今後の見どころとなる。オイスター・オプティクス社はIPR2017-01720、-01719、-01724においても同様の主張を行っていた。
新たに導入された理由については、状況によっては、特許権者と申立人が、当初は審理の対象ではなかったが、SAS に応じて PTAB によって追加された非特許性の理由を取り下げることに合意した場合もあります。その一例が、One World Technologies, Inc. 対 The Chamberlain Group, Inc. の事件で、この事件では、新たに導入された理由が合意により取り下げられました。[5] 関連して、PTAB は、SAS 後に新たに追加された先行技術に対しては禁反言が適用されないことを当事者が規定しようとしたが、当事者が撤回に合意した場合、その状況では禁反言の問題は熟していないとして、その決定を拒否しました。[6] その代わりに、PTAB は、禁反言の適用に関する決定は「その問題が決定の準備が整った時点で、特許庁によって行われる」と表明しています。
したがって、SAS導入からわずか2週間の時点と比較すると、当事務所はPTABによるSASの適用状況だけでなく、特許権者と申立人の反応についてもより豊富な経験を有しています。SAS導入後の期間が継続するにつれ、この経験はさらに蓄積され、申立書提出や特許権者の予備的応答に関する戦略的変更も含まれていくでしょう。 前回のSAS関連投稿で触れた通り、フォリーでは6月第3週にこれらのトピックを含むウェビナーを企画中です。詳細は近日中に発表されます。
[1]4月25日以降の決定総数:126件(審理開始決定80件、審理不開始決定46件)
[2] 例えば、Hoya Optical Labs of Amer., Inc. v. Inland Diamond Prods. Co., IPR2018-00178, Paper 11, 30-32 and 39-40 (2018年5月24日)を参照。
[3] 例えば、 Syrinix, Inc. 対 Blacoh Fluid Control, Inc. 事件(IPR2018-00415、文書7、17-19頁、2018年5月29日)を参照。
[4] IPR2017-01725 、ペーパー18、9-15頁(2018年5月25日)を参照 。
[5]IPR2017-01137、書面22(2018年5月16日)(申立書);IPR2017-01137、書面23(2018年5月17日)(命令)。
[6] Ooma, Inc. 対 Deep Green Wireless LLC 事件、IPR2017-01541、文書25(2018年5月23日)(命令書)参照。