2020年9月22日、トランプ大統領は人種及び性別の固定観念との闘いに関する大統領令(「本大統領令」)を発令した。本大統領令は、連邦政府の請負業者及び下請業者、並びに連邦政府の補助金を受給する組織に適用される。 本大統領令は、「連邦職員または軍隊における人種または性別の固定観念やスケープゴート化の助長を排除し、助成金がこれらの目的に使用されることを許さない」ことを目的としている。さらに 、連邦契約業者は従業員にこうした見解を植え付けることを許されない。
大統領令で禁止される行為には、職場における「分断」の助長が含まれ、これには「分断を招く概念」に関する教育・研修が含まれる。大統領令は 「分断を招く概念」を以下のように定義している:
- ある人種または性別は、他のいかなる人種または性別よりも本質的に優れている。
- アメリカ合衆国は根本的に人種差別的あるいは性差別的である;
- 個人は、その人種や性別によって、意識的か無意識的かを問わず、本質的に人種差別的、性差別的、抑圧的である。
- 個人は、その人種または性別のみまたはその一部を理由として、差別を受けたり不利な扱いを受けたりしてはならない。
- ある人種や性別の成員は、人種や性別を問わず他者を扱うことはできず、またそうすべきではない。
- 個人の道徳的性格は、その人種や性別によって必然的に決定される。
- 個人は、その人種または性別によって、過去に同じ人種または性別の他の成員によって行われた行為に対する責任を負う。
- いかなる個人も、その人種または性別を理由として、不快感、罪悪感、苦痛、またはその他のいかなる形態の心理的苦痛を感じるべきではない。
- 能力主義や勤勉さといった特性は人種差別的あるいは性差別的である、あるいは特定の人種が他の人種を抑圧するために作り出したものである。
大統領令はまた、「『分断的な概念』という用語は…その他いかなる形態の人種または性別のステレオタイプ化、あるいはその他いかなる形態の人種または性別のスケープゴート化も含む」と明記している。 人種または性別のスケープゴート化とは、大統領令において「意識的または無意識的に、特定の人種または性別の成員が、その人種または性別のゆえに本質的に人種差別的である、あるいは本質的に他者を抑圧する傾向があるとする主張、または特定の性別の成員が本質的に性差別的である、あるいは他者を抑圧する傾向があるとする主張」を明示的に含むものと定義されている。 多くの組織が公平性・多様性・包摂性(ED&I)研修に組み込み、「ベストプラクティス」に基づく効果的なED&I研修の絶対的必要条件と見なしているのは、まさにこの後者の概念——無意識の偏見(unconscious bias)と暗黙の偏見(implicit bias)——である。
大統領令の追加義務の中には、連邦契約者遵守プログラム局(OFCCP)局長に対し、今後30日以内に連邦契約者及び下請業者から以下の情報取得を目的とした連邦規則を公布するよう求める要件が含まれる:(i) 「従業員に提供された全ての研修、ワークショップ、または類似のプログラム」の特定; (ii) 「多様性と包摂性に関連する研修、ワークショップ、または類似プログラムの資料」;および (iii) 当該活動の期間、頻度、費用に関する情報。現時点では、こうした情報をいつまでに、どのように収集するかについての説明はない 。
この新たな大統領令がどのような訴訟を引き起こすかはまだ見通せない(例えば、既に多くの専門家が憲法修正第一条(言論の自由)に関する懸念など様々な問題について意見を述べている)。また、大統領令が連邦政府契約業者および下請け業者の公平性・多様性・包括性(EDI)研修にどのような影響を与えるかも不明である。フォリー・アンド・ラードナーの 労働法チームは 、こうした動向を引き続き注視するとともに、本大統領令が貴社の 研修プログラムに与える影響についてご相談を承っております。
大統領令、および同令がED&Iプログラムから無意識的・暗黙的バイアス研修を排除しようとする提案は、大統領令の対象外である雇用主向けの現行ベストプラクティス基準と整合しない点に留意することが重要である。さらに、同令は、雇用主がED&I研修に反バイアス研修を組み込むべきとする労働法専門弁護士や法務部門の一般的な見解・助言とも矛盾しているように見える。