連邦巡回区控訴裁判所は最近、リップインプラントに関する意匠特許出願のクレームを狭義に解釈し、工具に関する先行技術文献を根拠に当該クレームの拒絶を支持した特許審判部(PTAB)の判断を覆した。本事例は、意匠特許出願においてクレームの言語を慎重に選択し、範囲と有効性のバランスを取る重要性を示している。 また本事例は、予見拒絶の先行技術分野が、意匠出願で特定された物品に限定されることも示している。
In re SurgiSil(判決文はこちら)において、SurgiSil社は、出願番号29/491,550('550出願)に対する審査官の拒絶を支持したPTABの決定を不服として上訴した。'550出願は「唇インプラント用の装飾的意匠」を主張している。 審査官は先行技術文献であるディック・ブリックカタログ(Blick)に基づき、このクレームを拒絶した。同カタログには「スタンプ」と呼ばれる美術用具が開示されている。審決では「文献が類似技術であるか否かは、その文献が先行技術となるか否かとは無関係である」と指摘されている。¹

連邦巡回区控訴裁判所は判決を破棄した。同裁判所は、意匠特許を「製造品の新たな、独創的かつ装飾的な意匠」に付与することを認める35 U.S.C. § 171を引用し、「意匠クレームは、クレームで特定された製造品に限定され…広範に…抽象的な意匠に及ぶものではない」と述べた。2 したがって、ブリック社の美術工具は、リップインプラントの請求された意匠に対して先行技術とはならない。
この判断は、連邦巡回区控訴裁判所が係争中のクレームがクレームに記載された物品(当該事例では椅子)に限定されると判示したCurver Luxembourg, SARL v. Home Expressions Inc., 938 F.3d 1334 (Fed. Circ. 2019)事件と一致する。
連邦巡回区裁判所による最近の執行判決(Curver Luxembourg事件)および有効性訴訟において、意匠特許クレームの範囲が記載された製造品に限定される傾向が強まっていることから、出願人はクレームの文言を慎重に選択することが重要である。 一つの選択肢として、将来の執行措置や有効性争議に備え、付録や詳細な説明を活用して、記載されたクレームを望ましい方法で定義することが考えられる。例えば、クレームの言語を、一般的な理解とは広範に、異なって、あるいは狭く定義することで、複数の製品カテゴリーではなく競合他社の特定製品に限定し、有効性争議のリスクを低減できる可能性がある。
1 In re Surgisil, L.L.P., 14 F.4th 1380, 1381 (Fed. Cir. 2021).
2 同上、1382頁。